恋影
危なっかしいからか……、それとも、珍しい女子だからか……。
「…………。」
分からない……。だが、繋がれた手はしっかりと握られ、自分の後ろをついて来ながらも、辺りを注意している白鳴が見える。
自分のことよりも他人を優先とは、本当に珍しい女子だ。
武市は白鳴の手をしっかりと握り直す。
「……少し、速度を上げますよ?」
「はい。」
表通りから裏道へと入る。すると、武市が歩みを止め、脇道へと身を隠す。
「……どうかしたのですか?」
「浪士組です。【斎藤】と沖田とは……、ちょっと厄介ですね。」
物陰からのぞき見る。沖田は隊服は着ていないが、その隣にいる斎藤と呼ばれる人は隊服を着ていた。
さっき沖田に話しかけたのは、斎藤で間違い。黒い着物を着ていて、長い黒髪を結ってある。浪士組だけに厳しい目つきをしているが、何処か優しさがあるような……そんな目をしていた。
その側には以蔵らしき人物はいない。まだ、見つかってはいないようだ。
「ここはいったん引き上げるしかないでしょう。戻りますよ。」
「ダメです!以蔵がまだ見つかってはいません!」
「君は何処まで聞き分けがないんだ!?この状況が目に見えないわけではないだろう!?」
「だからと言って、仲間をこのまま見捨てるのですか!?あんな人数の浪士組相手に、以蔵が戦えるのですか!?」
「以蔵は戦いには慣れている。いくら浪士組相手でも、必ず切り抜けて戻って来るはずだ。」
「それでも、私は共に行くことは出来ません!いくら戦いに慣れていたとしても、あの人数で襲われたら、無傷ではいられないはずです。絶対に以蔵を助け出します!」
「勇気と無謀は違うのですよ!?以蔵を助けると言っても、君が何の役に立つというのですか!?かえって足手まといにしかならない!」
「私は刀が扱えます!!だから、絶対に足手まといにはならない!!」
「……ならば、行くといい。それで、僕達の縁も終わりだ!!」
「武市さん……!」
武市は振り返らずに白鳴をおいて行ってしまう。
仲間が危険に晒されているというのに、そんなに簡単に見過ごしにしていいはずがない。お尋ね者ならなおさらのことだ。
白鳴には武市の考えが全く分からなかった。
とにかく、この先に以蔵がいるのなら、助けに行かなくてはならない。白鳴は物陰から出て行った。