恋影
武市はその様子を少し離れた場所が見ていた。
ついカッとなってしまって怒鳴ったが、白鳴が言いたいことは分かっていた。
だが、たかが数日過ごしただけの相手に、あそこまで真剣になれる者は珍しいものだ。しかも、白鳴は男ではなく女だ。
義理堅いだけに、無茶も厭わないのか…、ただの無謀なだけなのか……。
それに刀が扱えると言っても所詮は、女の力だ。浪士組に敵うはずもないのだ。
と、そこへ以蔵が現れる。どうやら、何処かに隠れていたようだ。
「師匠…!」
「以蔵か。」
「どうしてこんな所に?ここは危険です。早く寺田屋へ戻って下さい。」
「それは危険を巻いた者が言う台詞ではないな。」
「は……?」
「白鳴さんがお前を捜しに行くために、浪士組に会いに行った。」
「なっ…!!」
「僕は彼女を連れて帰るから、お前は先に寺田屋へ戻れ。」
「え………?な、何馬鹿なことを言うのですか?!俺があの女を連れて帰ります。師匠こそ、先に戻ってて下さい。」
「命令だ、すぐに戻れ。僕もすぐに戻る。」
「師匠……!!」
「早く行け!」
「……分かりました。」
以蔵は納得いかないような顔をしながら、その場から去って行った。
本来なら以蔵を行かせればすむ話しだ。だが、行かせずに帰してしまった。自分の言ったことに一番納得していなかったのは武市のほうだった。
これでとりあえずは問題が解決する。後は白鳴を連れ戻すだけだ。
武市は元来た道を引き換えして行った。
斎藤と沖田は以蔵を捜索するために、二班に分かれていた。沖田は反対の道へと行く。
そこへ白鳴が前からやって来る。
「………!」
こんな人気のない道を一人で歩いている。斎藤は白鳴に近づく。
「止まれ。」
「……。」
「……こんな所で何をしている?」
「近道なので通っているだけです。」
「何処へ行くつもりだ?」
「家に帰る途中です。」
京の人間ならば、こんな人気のない道を、女の子一人で通るはずがないのだが、女が以蔵を知っているとは考えにくい。
「……この辺りは何かと物騒だ。なるべく通らないほうがいい。」
「はい。」
「行け。」
白鳴は軽く頭を下げると、その間をすり抜けて通って行く。
「組長、いいのですか?あの女、見るからに怪しいですが?」