恋影
「……【白菊一】。」
「!」
「あれを狙っているのなら、少しは刀を扱えるようになっていたほうが、あの娘の身のためだと思ったのだ。だから、あえて弟子達のしていたことには、目をつむっていた。」
「じゃからと言って、まだなんも知らん小さな女子に……。」
「酷いことをしたと思っている。だが、もし万が一のことが合っては遅いんだ……!」
【白菊一】が狙いならば必ず奴らは、薫子を捕まえにやって来るだろう。
その時に、万が一があってからでは遅い。
弟子達がしていたことは許されることではないが、それに立ち向かう薫子の姿を見ていたら、止めるにとめなくなってしまったのだ。
それに、薫子は弟子達の立ち筋を見て勝とうとしていた。だから、それだけはやめさせるわけにはいかなかったのだ。
「……だが、それが裏目にでちょる。あん子の目は、子供の目ではないぜよ。」
「分かっている。あの娘にはあの日以来、信頼出来る者がいなくなっている。酷いことをした僕に、心を許せるわけがない。だが、心は許せなくても、信頼を出来る者ではありたい。僕は、あの子の父親なのだから……。」
「武市……。」
目の前で家族を失い、訳も分からずに居候先で下働きをさせられ、誰からも守ってもらえず、たった一人で絶えてきたのだ。
その苦しみはずっと続くだろう。
だからせめて、信頼し必要とされる存在なのだと、思うくらいにはなって欲しいと願うのだ。
「……どう収集をつけるかは、おまんの思うようにしたらええ…。ワシはいつでもおまんらの味方じゃけいのう。」
「龍馬。」
「さあて、ワシはもう帰るとするかのう。帰って奴らのことを調べてみるぜよ。」
「……助かる。」
「気にするな!ほな、薫子ちゃんによろしゅうな!」
龍馬はそれだけを言って帰って行った。
奴らは必ずここへ来るだろう。
その前になんとかしなければならない。
ーー数日後。
薫子はいつものように、竹箒を持って庭掃除をしていると、弟子達がやって来る。
また、稽古という名目で薫子をイジメようとしているのだ。
「おい!そこの捨て子!また、庭掃除をさせられてるのかよ?」
「捨て子が掃除しても、大して綺麗になんねえし、返ってきったねえ…!」
「………!」
「もっとまともな掃除が出来るように、俺達が鍛えてやるよ!」