恋影
以蔵の居場所を知るために、後をつけていたなんて言えない。
「じゃあ、行こうか。」
「はい。」
促されるように白鳴は沖田について行った。
町通りはさっきとは違い、浪士組の姿もなかった。
以蔵は、以蔵は無事に戻ったのだろうか……?
こんなことになってしまい、白鳴が戻っても武市達に合わせる顔がない。
ふと、沖田が白鳴の顔を覗き込んでいた。
「……!!」
思わず後ずさってしまう。
「な、なんですか…!?」
「いや、落ち込んだ顔をしていたから、どうしたのかなって思って。」
悪びれた様子もなく、クスクスと笑う沖田。
「あ……いえ、別に……。」
「やっぱり、僕が浪士組だから気になるの?」
「そんなことはないです……。最初に沖田さんに近づいたのは私ですし。」
「なら、何をそんなに悩んでるの?仲間と喧嘩でもしたとか……?」
喧嘩……。
と、言っていいものなのだろうか…。そもそも武市は白鳴のことを知らない。言うなれば、迷惑の他何ものでもないだろう。
白鳴は足を止める。
「沖田さん、やっぱり私、このまま帰ります。なんか気分が乗らなくなってしまって……。」
「そっかぁ、そのほうがいいかもね。なら、家まで送るよ。」
「いえ……!大丈夫です。一人で帰れますから。今日は本当にすみませんでした。」
白鳴は沖田に頭を下げ、来た道を引き換えして行った。
結局、成す術なしに事は終わったようだ。
でもまさか、武市があんなに怒るとは思わなかった。仲間なんだから助けるのが当然。そう思っていたのは白鳴だけだったのかもしれない。
ここへ来てだいぶ事情は飲み込んで来たが、やはり分からない部分が多いのかもしれない。
とりあえずは、寺田屋へ帰って武市に謝るしかないだろう。話せばきっと分かってくれるかもしれない。
白鳴は寺田屋へ足を向けた。
寺田屋の近くに来る頃には、夜になっていた。やはり、都だけあって道が複雑に入り組んである。
「……はぁはぁ………。」
役に立ちたいと、色々なことをして来たが、道も分からない、所詮ただ迷惑な小娘にしかならない。
これでは、武市達の役に立つどころか、足を引っ張ることにさえなりかねない。
「………はぁ…。役立たずか……。」
いまさらながらに、武市が言っていたことを思い出す。