恋影
今の状況からして、言い返すことが出来ない。
「……武市さん まだ、怒ってるのかな……。」
そう考えるだけでも足取りが重くなってしまう。
「!」
すれ違い様に誰かとぶつかってしまう。暗くてよく見えなかったが、人が近くまで来ていたようだ。
「す、すみません…!」
慌てて謝る白鳴。
「なんだ~?ぶつかっておいて、頭を下げるだけか~~?」
「……!」
どうやら相手はかなり酔っているようだ。お酒の臭いが周りに漂う。
「ちょっと付き合え…!それくらいしてくれても、罰はあたらんだろう。」
「!」
泥酔しきった男が白鳴に手を伸ばしてくるが、白鳴はそれをあっさりと交わす。
「なに逃げてんだよ…!こっちへ来い!」
「!」
すかさず男の手から逃れる白鳴。このまま、この男にかまってなどいられない。
「待てこら!」
「……!」
男を振り切ると一気に駆け出す。
「待てーー!女ーー!」
男もでろでろになりながらも、白鳴の後を追い掛けて来る。
このまま、寺田屋まで走って行くわけにはいない。なんとか男を撒かなければならない。
白鳴は裏道へと入り込み、物陰に身を潜める。
「チッ!何処へ行きやがった…!」
「………!」
このままでは危ない。白鳴は覚悟を決めるように、懐から刀を取り出す。
男の影がこちらへと、近づいて来る。
今だー!
白鳴が勢いよく飛び出そうとするが、背後から何者かに押さえ付けられ、口を塞がれて身動きが取れなくなってしまう。
「………!!」
白鳴は持っていた刀で、相手の身体に傷をつける。
「!」
相手が緩んだ隙に、白鳴は逃れようとする。
「……!?」
だが、逆に羽交い締めにされてしまう。
まるで、白鳴を守るかのように……。
「落ち着きなさい…!僕です!」
「……!」
聞き慣れた声がし、白鳴の動きが止まる。おそるおそる後ろを振り向くと、そこにはいないはずの武市がいた。
差し込まれた月明かりに照らされて、顔がはっきりと見える。
「武市さん……!」
どうしてここに武市が…?目を白黒させる白鳴。
「怪我はしてませんか?」
「……それはこちらの台詞です!なんで、ここにいるんですか!?浪士組に見つかりでもしたら大変です!」
「ふ……。君は以蔵と同じことを言うのだね。」