恋影
「ほら、来いよ!」
「!」
無理矢理着物を捕まれ、道場へと連れていかれる。どんなにもがいても、力では弟子達に勝てないのだ。
ドサッ…!!
床にたたきつけられる。
「ほら!」
いつものように木刀を、薫子に投げつける弟子達。
「先生もお前のこと、どうでもいいみたいだしな!」
「捨て子には哀れみの価値もなしってか!」
馬鹿にしながら笑う弟子達。それに負けないように、口元を拭いながら立ち上がる薫子。
「……なんだよ?その生意気な目は?」
「……っ!」
「俺達に刃向かう気か!?」
髪の毛を掴み上げなじる弟子達。
「こいつで、その目を叩き潰してやる!!」
「!」
掴みかかっていた弟子が、持っていた木刀を振り上げる。
だが、それが薫子に下ろされることはなかった。
「あっ…!」
その場にいた誰もが、予想外の人物の登場に驚いていた。
「せ、先生……。」
振り上げられていた木刀は、武市が止めていたのだ。
「……その手をまずは離しなさい。」
弟子は凍りついたような手を、薫子から離した。その場にいた誰もが、その後に起こることを予測していた。間違いなく、怒られるだろう…。
武市は弟子達を鍛える時は厳しくすることで有名であった。その者がこのようなことをする弟子達を許すはずがない。皆、凍りついたように、固まっていた。
「お前はこの木刀を持って、中央に立て。残りの者は端に待機せよ。」
「……!」
「薫子はこの胴着に着替え、そこの木刀を取りなさい。」
「!」
「今から試合形式で型を付ける。負けた者は勝った者に従え。出来なければ、すぐにここから出ていってもらおう。」
それは突然の勝負であった。
これに勝てば文句はないが、負ければ相手の言いなりにならなければならない。
突然のことではあったが、弟子達は当然、薫子なんかに負けるわけにはいかない。負けて、薫子の言いなりなるくらいなら、破門されたほうがまだいい。
プライドをかけて、この気に薫子を再起不能になるまで、打ちのめそうと考えていた。
対する薫子は、余計なことを考えずに、目の前にいる敵を倒すことだけを考えていた。
胴着に着替え、道場の真ん中に立つ。
初めての試合だが、お互い負けるわけにはいない。
その場に緊張が走る。
「構え!」