†captivity†(休載)
「和歌は鈍いね。今更気付くなんて」
あたしは……名前も覚えていない彼に、恋をしていた。
驚くほどに、納得できた。
恋とか愛とか、考えたこともなかった。
だってそんなことしたら、知歌が独りになっちゃうと、思ったから。
でも、あたしは実際にしていたのだ。
小さな小さな、知歌の事件がまだなかった頃に、一度だけ。
「和歌は……今、好きな人いないの?」
「へ!?」
灯くんがいきなりそんなことを聞いてきたものだから、あたしは思わず声を上げてしまった。
「い、いま!?」
「いま」
「なんで!?」
「個人的な理由で知りたいから」
ニコリ、灯くんは笑った。
満面の笑顔だ。
うわぁ……どうしよう。
思わず逃げたくなったけれど、よくよく考えてみると、別に好きな人がいるわけじゃないのだから、関係ないじゃない。
「いないよ、そんな人」
「え、うそ」
「ホントだよ」
何を期待していたかのか、彼は思っていた以上に驚いていた。