†captivity†(休載)
見慣れた景色を後ろ向きで進む。
なぜなら担がれているから。
驚きで振り向く人々。
なぜなら、担がれているから。
あぁ、見ないでおくれ。
確かに担がれている人を見るなんてことはめったにないでしょうけどね。
とんださらし者だよ。
「緒方先輩いい加減降ろしてください」
「……」
「無視か」
「……」
彼はどうやら無視を決め込んでいるらしい。
なぜかいつも味方の知歌まで助けに来てくれる気配がない。
そんなことをしているうちに、もう景色が慣れ親しんだものになってきた。
家に近いな。
けれどきっとこのまま家まで送ってくれるなんてことはないだろう。
そうしているうちに、案の定あたしは家に顔を向けたまま遠ざかり、エレベーターに乗せられた。
さよならあたしのお家。
グッバイ幸せな日常。
ぐーんと昇っていく感覚に、あたしは一つため息を吐く。
なにが嬉しくて緒方先輩に担がれなきゃならないのか。
そりゃ、暴れようとも思ったよ?
でもあたし制服だし。
スカート短いし。
だから諦めたんだけど。
諦めなければ良かったかもしんない。