†captivity†(休載)
──0センチ
あたしのハジメテを、彼は簡単に奪っていく。
ぎゅっとこの腕で、確かに抱きしめたことがある、男の子。
そうだ、メガネの、男の子。
とても、とてもマジメそうな男の子。
大きなリュックを抱えて、ベンチに座っていたんだ。
でもあの日だけは、彼は習い事をオサボリをして、あの公園にいた。
温かな、柔らかい感触が唇を包む。
気付けばあたしは、唇を重ねたまま、ポロポロと涙を流していた。
異変に気付いた緒方先輩は顔を離し、ギョッとした目を向けた。
『パパと、ママと、あと弟がいるの』
なぜ、いま、このタイミングで。
『パパは時々怖いけどね、遊んでくれる時は笑ってるの』
思い出したのだろう。
『ママはいっつもニコニコでね』
あの男の子を。
『弟は可愛すぎて困っちゃうの』
『しんくん』
しんくん。
『ココロ』って書いて、心。
心くん、心くん、心くん。
「緒方、心」
新しいお友達ができたら、忘れないように3回名前を心の中で言う、おまじない。
ママからのおまじないを、確かにした。