†captivity†(休載)
あたしは知歌を自分の部屋に通すと、ため息をついてから振り返って据わった目で彼を見る。
「売ったな?」
「和歌がなかなか進まないから、後押ししてあげたんだよ」
今朝の事件――そう、あたしが寝ている間に心くんの部屋に連れていく許可を勝手に出した件だ。
(そのおかげで付き合うことにはなったのだけども)
知歌はいつから気付いていたんだろうか、あたしが心くんのことを好きだと思っていたこと。
なんで解っちゃうんだろう?
双子だからかな。
そういえば、知歌には好きな人とかいないのだろうか?
「和歌、おめでとう」
「え?あぁ、ありが……まって、あたしまだ話してないよね?」
この流れからすると、心くんと付き合うことになったことに対しての『おめでとう』なんだろうけど……。
なんで気付いた?
ていうか知ってた??
「和歌の顔見ればわかる。今の和歌、スッキリしてるでしょ。前進したんだろうなって、すぐわかったよ」
焦ったのも束の間、ただあたしがわかりやすい顔をしていただけらしい。
……鋭いなぁ、もう。
知歌はほんとに、病院に通うようになった後頃から、こういうことに鋭く気付くようになった。
その前は内気な方で、言われたことにも言い返さないし、言葉になんて全然してくれなかったけれど、どうやら復帰した頃から考え方を変えたらしい。
認知行動療法
無意識に歪んだ思考の、現実との食い違いを認識して、心のバランスを取り戻していく治療法。
それと、日記を付けていることも知っている。
考え方が変わり、感情の言語化を日記で練習し、自然と人の見方や行動にも影響したらしい。
見えないところでも、彼は頑張っている。
それでちょっと鋭くなっちゃったのは……お姉ちゃん困っちゃうこともあるけど、それが知歌だと受け止めるよ。