†captivity†(休載)
こうやって、可愛さへ悶える気持ちと恋そのものの感覚の違いを、こんなにも別物なのかと実感したことはなかったかもしれない。
撫でられている頭部に、どうしても意識が持っていかれてしまう。
いつまでもこのままで居られそう。
そんなわけには、いかないけれど。
「和歌、もう出かけるの?」
後ろから聞こえたのは、知歌の声。
振り返るとそこに居た知歌がこちらへ歩み寄ってくる。
「俺にも挨拶させて」
靴を履き、彼も玄関を出て閉める。
「どうも、和歌が世話になります」
「あぁ。……この前は悪かった、朝に」
「大丈夫です、和歌が嬉しそうだったので、それでチャラです」
心くんがそう知歌と話す。
この前とは、もしや寝たまま拉致されていた時のことか。
「いや、あの時は緊急とはいえ迷惑かけたよ」
そう言ってこちらに歩み寄ってきた東先輩の手には、袋に入ったケーキ屋さんの箱が。
そういえばさっきまで奏多くんが持っていた気がする。
「フルーツタルトなんだけど、ご家族とどうぞ」
「え」
「え!?」
そう、差し出された。
あたしたち姉弟は思わぬ手土産にただただ驚く。
「いいんですか……?」
「奏多の家の系列店で売ってるんだ。よかったらどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
東先輩……もしや意外と常識人なのだろうか。(失礼)
というかフルーツタルトなんてオシャレなチョイスをして頂けるとは。
三人でお店行ったのかな?
ちょっと可愛いな。
「和歌、帰ってきたらみんなで食べようか」
「そうだね、知歌。有難くいただきます」
知歌と一緒に三人へ、ペコリとお辞儀した。
ふと、知歌が思い出したかのように口にする。
「茅ヶ崎くん家はお店やってるの?」
奏多くんへと視線を向ける知歌、そして東先輩の陰に隠れてしまっている奏多くん。
「……あ……はい」
蚊の鳴くような、そんな小さな声が聞こえた。
最初の頃を思い出すなぁ。