†captivity†(休載)


車は静かに走り出す。



「きょ、今日はよろしくお願いいたします、です」

「はぁい、お任せください。着くまでくつろいでていいからねぇ」



未だあたしはカチコチしていて、この場に馴染めていない。

心くんはと言うと、窓の縁に頬杖ついて外を眺めているだけなのだ。

この慣れない気まずい空気に気付いていてそうしてるのか?

彼の頭の中もぜんぜん読めない、ぐぬぬ。



「坊ちゃん、予定していた通りの場所でいいんですかい?」

「あぁ。どれくらいかかる?」

「渋滞もないみたいなんで20分程度で着くと思いますよ」



運転手さんがそう言うので、あたしも車に設置してあるカーナビに目を向ける。

といっても、ナビなんて見たところで、ナビ経験のないあたしには分からないんだけども。



地図で見慣れた地形の道を、学校とは逆方向に進んで行く。



「坊ちゃーん」

「……」

「初デートで緊張しているのも分かりますけどねぇ、もうちょっとその仏頂面と無口はどうにかなりませんかい?彼女さんも緊張していらっしゃるんだから」



……緊張?心くんも?

バッと勢いよく心くんを見ると、彼は頭を抱えていた。

え、緊張してるの??



「余計なこと言うなっつっただろうが」



否定の言葉がなかった。



「いやぁ、でも坊ちゃん、このまま坊ちゃんが黙ったままだと、私とお嬢さんの仲がどんどん深まるばかりで──」

「黙れ、こいつと話さなくていい」

「もう、横暴なんですから。お嬢さんだって会話もないとつまらないですよねぇ?」

「え!いえいえ、緊張で手一杯というかなんというか……」

「ほら、坊ちゃぁぁん」



なんというか、この運転手さん、かなり心くんと親しいように感じる。
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