†captivity†(休載)
車は静かに進んでいく。
やたらと静かだなぁと思ったら、そうだ、音楽やラジオの類を付けていないんだと気付いた。
『心は普段から意識して気を抜いてる』
ふと思い出したのは、この前ピコピコハンマーで心くんを起こそうと奮闘した日の、東先輩から聞いた話だった。
そのために、あまり情報の多いものは避けているようで、部屋にもTVや音楽プレイヤーはない。
彼の周りは常にシンプル。
この車もその仕様になっているのかと思うと、ちょっとだけ、彼の一面を知れたような気持ちがじわりと広がった。
「そういえば、水族館て人混みじゃないですか?大丈夫なんですか?」
彼は学校や近くのショップすら行っている所を見たことがない。
だから実は人混みに酔っちゃう人なんだろうか?説が、あたしの中では有力説になっていて。
そうすると休日の水族館なんて大丈夫なのか?と、ふと思ったのだ。
「気付いてたのか?」
「詳しくは、知らないですけど。避けたい所があるのかなぁ?程度には」
「短時間なら大丈夫だ」
まさか時間制限の方に問題があるとは全く知りませんでしたけど!!
「視覚情報と聴覚情報を集めすぎるんだ。だからすぐ疲れる」
「まさかそれみんな記憶してるってことですか?」
「あぁ。情報量が膨大すぎる。一度に五感を使いすぎるとすぐ熱が出るな」
なんともハードな体の持ち主だった。
忘れることが出来ないという以外にも、そんなに体の負担になっていることがあったのか。
大変そうな話をしているのに、彼はふっと笑う。
「そのリスクありきで計算して楽しむからいい。お前の純粋に楽しんでいる姿が見たい」
流し目を向ける彼に、また心臓が跳ねる。
今日はまだ、始まったばかりだ。