†captivity†(休載)
クスクス、運転席からも笑い声が聞こえる。
「甘酸っぱい悩みですねぇ。羨ましい」
「へ!?」
「おっさんくせぇぞ」
「まぁもう否定も出来ない歳になりましたがねぇ」
そう言ってまた、運転手さんは笑う。
話してる時、つい運転手さんがいることを忘れてぶっちゃけ過ぎていたかもしれない。
気を付けなければ。
「坊ちゃんは小さい頃に既に、大人の汚い部分を知ってしまっていて、ちょっとスレちゃってる所もあるんですが」
「喧嘩売ってんのかオイ」
「まぁまぁ、悪い意味で言ってるわけじゃあないんですよ。客観視はお上手なんですが、子供っぽさがなくてですねぇ」
「子供っぽさいらねぇだろ、この歳に」
そう二人の会話を聞いていて、確かに心くんは大胆な部分がある一方、普段は常に冷静だと思い返す。
人の心に寄り添い、導くような言葉をくれる。
だからこそ救われた奏多くんや……まだ完全には解決してないようだけど東先輩も、彼の元にいつも居る。
安心して心を開ける。
あたしも、彼と一緒の時間は心地がいい。
でも、運転手さんは子供っぽさを望んでいるようで。
「子供っぽさ……?」
「子供っぽさ、甘酸っぱさってのは、今くらいしか経験出来ないもんですよ。周りが歳下ばっかりになると自分が我慢しなきゃならなくなって、そのまま凝り固まっていくんですから」
「なにが言いたい?」
心くんの低い声が、この場を静かに揺らす。
なにかに反応したかのように、まるでそれは、威嚇している獣のように。
恐れているかのように。
「お嬢さんが現れたことで、坊ちゃんが人を頼れるようになる絶好のチャンスになるかと、思っていましてね」