†captivity†(休載)
「綾愛さん!!あたしも買ってきていいですか!?」
「ふむ、ならペアのアクセかストラップなんてどうでしょう?そこのレジ前の棚にあります」
「ありがとう!!」
すぐさま棚へと向かったけれど、心くんとも綾愛さんとも離れた位置になってしまった。
すぐお目当てを見付け、手に取ろうとすると、それを阻む手が、スっと差し出される。
「あ、すみませ……」
「君が藤崎和歌さんだね」
ふと知らない声で呼ばれる自分の氏名。
手の伸びる位置からして背の高い、男の人──?
ばっと顔を上げて確認すると、そこにいたのは、ここの制服を着たお兄さん、つまり店員さんだった。
歳は二十代前半くらい、だろうか?
「誰……?」
「君の彼氏の父に仕え始めた者だよ。やる事がエグいね、あの人」
「心くんの……お父さん、の?」
心くんのお父さん、そういえば話に聞いた事ない。
いや、もしかして、子供の頃聞いた話が──
「はい、そこまぁで」
そう、明るい声と共に、男の人の腕に手刀がストンと落ちる。
この場に踏み入って来たのは綾愛さんで。
すると今度は、後ろからのそりとかけられる体重と共に、彼の落ち着く香り。
緊張の糸が、ゆっくりとほぐれる、彼のぬくもり。
「また浮気か」
「違う。わかってる癖に」
「あーあ、みつかっちゃった」
男の人はヘラりと笑うと、綾愛さんに向く。
「危害は加える気ありませんから」
「不審者め」
「いや、一時的な雇われの身なんすから、忠誠心なんて欠片もねぇですよ。ていうか今店員の方なんで」
綾愛さん……お知り合いなのだろうか?
「藤崎さん、二重スパイって知ってます?」
そう突然聞かれ、その言葉を認識するのに数秒。
綾愛さんや心くんの態度から、この人が敵ではないとようやく把握した。