†captivity†(休載)
「心くんも、楽しめました──?」
「……」
表情をなくして、じっとあたしを見つめる瞳。
いつもはおちょくってきてばかりの彼が、今は不安を抱えているようで、こちらも心配になる。
彼は今、どんなことを考えているのか……。
と、反応のなさにこちらも不安に思っていたが、彼の口角が緩やかに上がり、その手はまた、あたしの頭の上に伸びてきた。
「お前がはしゃいでる姿見て、すっげー楽しめた」
「あたしじゃなくて、魚を見てくださいよ!!」
ゆるりと撫でてくれる、その手が気持ちいい。
どうやら彼も楽しめてたようで、よかった。
次回はぜひ魚を堪能していただきたい。
ふと、車が見慣れない道を走っていることに気付く。
「……あの、綾愛さん」
「どうしたの?」
「この車……どこに向かっているのでしょう?」
キョトン、とした瞳を向けられ、ヒヤリと肝が冷える。
しかし心くんにはこの状況が通じたようで。
「はぁ……ババアとハメてきたか」
そう呟くと、にやりと綾愛さんが笑みを濃くする。
あ、その表情、若干東先輩の名残がありますね。
というか、ババア……とは、まさか。
「まぁ、実家への道くらいわかっちゃいますよねー」
実家……。
心くんの……実家!!?
ということは理事長の!!?
「理事長のところへ向かっているということですか!?」
「ぴんぽーん!大丈夫大丈夫、既にお兄ちゃんたちもそっちにいるから!怖くないですよー」
いつの間に!!
既に理事長とはご対面したとはいえ、カチンコチンに緊張してしまうのは回避出来る訳もなく。
そのまま車は、広い敷地内へとスルリと入っていった。