†captivity†(休載)
フフッと、正面から笑い声が聞こえて顔を上げると、そこには笑顔の理事長がいた。
「本当に、仲がいい双子さんなんだね。心も妬いちゃうだろう」
「あ、その件に関しては既に」
「黙れ黙れ黙れ、終わった話蒸し返すな」
以前、嫉妬の末に俵担ぎされた上に盛大に勘違いしていて大恥かかせてしまったこと……を話そうとしたのが伝わってしまったのか、早急に口を挟まれた。
恥じらう心くんも可愛い。むふふ。
遠くで「えぇ!?綾愛さんて東先輩の妹さんなんですか!?」という友の驚き声が聞こえる。
そちらにもご挨拶に行ったようだ、綾愛さん。
灯くんは綾愛さんのことを知っていたんだろうか?
奏多くんは知っていたように思うけれど。
もう夕方だけど、6月の日はだいぶ延びていて、雲は多いけれどまだ日は落ちていないようで。
今日一日、とっても濃かったなぁ。
ようやく一息つけたと実感してあたたかい紅茶を口にする。
微糖派ですよ、和歌さん。
「そういえば、理事長は心くんの家出の時のこと、ご存知なんですよね?」
ふと、あの頃のことが……というか、うちの家からこの家までの距離のことが気になったのだ。
「え?あぁ、そうだね。聞いてたよ」
「お前それを今家族のいる中で蒸し返すのか……」
「いやぁ、心くんがずいぶんと遠い所から来てたんだなぁと思って。歩きで行ける距離でもないでしょう?」
水族館から直接ここに来てしまったから詳しい現在地はわからないけれど、あたしの行動範囲外に位置しているということはわかる。
家から車で数十分ある距離だ。
「フフッ、バスで移動したらしいからね。そりゃ遠くまで行けちゃったわけだよ」
「……心くん、バスになんて乗れたんですか……!?」
「お前が俺のことを一体何だと思ってるかの方が不思議でしょうがねぇよ」