南の海を愛する姉妹の四重奏
レイシェスの元に、多くの情報が送られてくる。
重要なものが三つあった。
ひとつは、王都から。
出るはずのない近衛軍が、ロアアールに出征したため、王都防衛の再編成を行っているため、すぐには援軍は出せないということだった。
これには、彼女も皮肉な笑みを浮かべてしまう。
王都は、周囲を全て他の公爵たちに囲まれているため、敵が直接都を軍隊で攻めることは出来ない。
だからといって、手薄にすれば、何らかの破壊工作はあるかもしれないのだ。
要人の暗殺。
民衆の暴動。
どちらも確率は低いが、本気で画策されれば小さな花火くらいは上がるかもしれない。
それに、既にロアアールにはフラの援軍が到着している。
王は、その辺りも計算して、そう返答しているのだろう。
いまいる戦力で勝てなければ、無能だと判断する、と。
レイシェスは、王の意図を受け取り、吐息をついた。
さて、あの王にとって息子である王太子は、想定外の行動を取ったのか。
レイシェスは、執務室の席に座り直しながら、都からの書面を眺めた。
想定外であっても、止めようと思えば本気で止めることは出来るはずだ。
止めなかったということは、王太子の生死がどちらであっても構わないと思ったのか。
唯一の男子という訳でもなく、本人の精神にも問題がある。
その問題が、王にとって良しか悪しかは分からないが、どっちになってもいいと考えているのかもしれない。
あの王のことを思い出し、レイシェスは苦い気分になった。
二つ目の知らせは、その王太子の様子である。
さっそく、やらかしたようだ。
それには、当然のごとくウィニーも関わっている。
ただ、結果的に言えば、王太子は孤立したこととなる。
ロアアール軍全体を敵に回し、近衛軍の心はもっと離れたという。
それでも、彼は変わらないのだろうが。
そして、三つ目は主力攻撃部隊が、まもなく会戦地へ到着するという報告である。
手紙の届いたまさに今、敵と睨み合っていることだろう。
防衛線は、幅広く引かれているが、大会戦が出来る場所というのは限られている。
敵に攻める気を失わせるためには、この大会戦を制し、相手の戦力を大きく抉り取らなければならない。
昔、国境近くに村があった。
余りの戦火の激しさに、そこは村として維持することは出来なくなり、いまでは無人の平地となっている。
防衛軍は、その地に展開して耐えている。
そこへ、ついにフラの部隊が到着したというのだ。
二十年前、隣国を苦しめた予想外の赤い部隊。
しかし、前回の経験と知識が向こうにはある。
おいそれと、突破させてくれるとも思えなかった。
だからこそ、側面攻撃が生きるのではないかと考えられている。
奇襲より、定番の防衛戦を得意とするロアアールの性質を、相手はよく知っているからだ。
今回は、王太子というイレギュラーな存在が来たこともあって、アーネル将軍は開き直ったように部隊を分ける提案をしてきた。
万が一、側面部隊が機能しなくとも、フラを含む主力部隊だけでも戦えるように。
結果的に、スタファはウィニーの側にいることは出来なくなったが、代わりにアーネル将軍が、身体を張ってくれた。
血生臭い、しかし避けられない戦いが始まるのだ。
レイシェスは、それを感じながら奥歯を強く噛み合わせた。
※
結果的に言えば。
主力攻撃も側面攻撃もうまく決まり、ロアアール側の圧勝に終わったのである。
特に、スタファ率いるフラ軍は、目覚しい働きをしたという。
20年前の経験と知識を持っているのは、敵だけではない。
フラ軍も同じなのだ。
そんな正面の正統派の強さに加え、アーネル将軍の側面攻撃も見事なもので、文句なしの戦果だった。
そんな中、問題はたったひとつだけ起きていた。
ウィニーが、大怪我を負った。
ただ──それだけである。
重要なものが三つあった。
ひとつは、王都から。
出るはずのない近衛軍が、ロアアールに出征したため、王都防衛の再編成を行っているため、すぐには援軍は出せないということだった。
これには、彼女も皮肉な笑みを浮かべてしまう。
王都は、周囲を全て他の公爵たちに囲まれているため、敵が直接都を軍隊で攻めることは出来ない。
だからといって、手薄にすれば、何らかの破壊工作はあるかもしれないのだ。
要人の暗殺。
民衆の暴動。
どちらも確率は低いが、本気で画策されれば小さな花火くらいは上がるかもしれない。
それに、既にロアアールにはフラの援軍が到着している。
王は、その辺りも計算して、そう返答しているのだろう。
いまいる戦力で勝てなければ、無能だと判断する、と。
レイシェスは、王の意図を受け取り、吐息をついた。
さて、あの王にとって息子である王太子は、想定外の行動を取ったのか。
レイシェスは、執務室の席に座り直しながら、都からの書面を眺めた。
想定外であっても、止めようと思えば本気で止めることは出来るはずだ。
止めなかったということは、王太子の生死がどちらであっても構わないと思ったのか。
唯一の男子という訳でもなく、本人の精神にも問題がある。
その問題が、王にとって良しか悪しかは分からないが、どっちになってもいいと考えているのかもしれない。
あの王のことを思い出し、レイシェスは苦い気分になった。
二つ目の知らせは、その王太子の様子である。
さっそく、やらかしたようだ。
それには、当然のごとくウィニーも関わっている。
ただ、結果的に言えば、王太子は孤立したこととなる。
ロアアール軍全体を敵に回し、近衛軍の心はもっと離れたという。
それでも、彼は変わらないのだろうが。
そして、三つ目は主力攻撃部隊が、まもなく会戦地へ到着するという報告である。
手紙の届いたまさに今、敵と睨み合っていることだろう。
防衛線は、幅広く引かれているが、大会戦が出来る場所というのは限られている。
敵に攻める気を失わせるためには、この大会戦を制し、相手の戦力を大きく抉り取らなければならない。
昔、国境近くに村があった。
余りの戦火の激しさに、そこは村として維持することは出来なくなり、いまでは無人の平地となっている。
防衛軍は、その地に展開して耐えている。
そこへ、ついにフラの部隊が到着したというのだ。
二十年前、隣国を苦しめた予想外の赤い部隊。
しかし、前回の経験と知識が向こうにはある。
おいそれと、突破させてくれるとも思えなかった。
だからこそ、側面攻撃が生きるのではないかと考えられている。
奇襲より、定番の防衛戦を得意とするロアアールの性質を、相手はよく知っているからだ。
今回は、王太子というイレギュラーな存在が来たこともあって、アーネル将軍は開き直ったように部隊を分ける提案をしてきた。
万が一、側面部隊が機能しなくとも、フラを含む主力部隊だけでも戦えるように。
結果的に、スタファはウィニーの側にいることは出来なくなったが、代わりにアーネル将軍が、身体を張ってくれた。
血生臭い、しかし避けられない戦いが始まるのだ。
レイシェスは、それを感じながら奥歯を強く噛み合わせた。
※
結果的に言えば。
主力攻撃も側面攻撃もうまく決まり、ロアアール側の圧勝に終わったのである。
特に、スタファ率いるフラ軍は、目覚しい働きをしたという。
20年前の経験と知識を持っているのは、敵だけではない。
フラ軍も同じなのだ。
そんな正面の正統派の強さに加え、アーネル将軍の側面攻撃も見事なもので、文句なしの戦果だった。
そんな中、問題はたったひとつだけ起きていた。
ウィニーが、大怪我を負った。
ただ──それだけである。