南の海を愛する姉妹の四重奏
新しい道
どうしよう。
ウィニーは、固すぎる姉の心を、変えられないことに気づいて茫然とした。
もはや、この部屋に姉はいない。
入れ替わりに、侍女のネイラが入ってくるのが見えたが、それどころではなかった。
どんな説得も姉には通じることはなく、ついには『これは、公爵となる私が決めたことです』と、とどめを刺されたのだ。
姉が、あの王太子と結婚する。
正確に言うと、王太子だった人と。
普通ならば、絶対にありえない組み合わせだった。
しかし、彼は自分の肩書を捨てて、ロアアールに婿に来るというのだ。
その際、結婚相手は姉妹のどちらでもいいという、恐ろしい冗談のおまけつきで。
そんな笑えない冗談を、姉は受けて立つ気なのだろう。
ロアアールと、そしてウィニーを守るために。
この馬鹿馬鹿しい婚姻を止める手立てを、彼女は必死で考えた。
姉の心が変えられないなら、あの男の心を変えるしかない。
だが、同時に時間もなかった。
姉が、正式に承諾の書状を、イスト(中央)に送ってしまえば、それこそ取り返しがつかなくなってしまう。
手紙を……ううん!
ウィニーは、立ち上がった。
クローゼットに突進し。
彼女は中から──軍服を引っ張り出したのだった。
※
ウィニーは、『靴下』を走らせた。
共に戦場にも向かった、彼女の愛馬である。
連れは、補佐官を含む軍の護衛3騎。
たったそれだけで、ウィニーはイストを目指していたのだ。
もはや、王都に乗り込んで、直接あの男と話をしなければ、覆す道はないだろう。
そう思った結果が、彼女のこの行動につながっていた。
このことについて、姉の許可が得られるはずもなく、ウィニーは黙って屋敷を飛び出した。
しかし、一人でそのまま都に走り出すような無謀なことはせず、彼女は軍舎に向かい、将軍たちと話をしたのである。
事情を説明し、ウィニーの意見に賛同を求めた。
あの王太子を、公爵の婿に欲しいなんて思っている将軍は、ただの一人もいなかった。
だが、断ることがひどく難しいこともまた、彼らはすぐに理解してくれた。
王太子を降りてまで、ロアアールに婿入りするという、前代未聞なほど向こうが下手に出ているからだ。
反逆の意を示す気がなければ、到底ひっくり返せることではないし、それを姉が決定することはない。
だから。
皆が難しい顔をしている中で、ウィニーはひとつの提案をした。
断ることが出来ないというのならば、せめて、と。
彼らは──それを、苦痛の表情で承諾した。
だから、補佐官も護衛もつけてくれたのである。
病み上がりの背中の傷が疼くのを、ウィニーは我慢しながら毎日馬を走らせる。
こうしている間にも、姉の書状が自分を追い抜いて行ってしまいそうで怖かった。
おそらく、将軍たちが姉に進言してくれているはずだ。
きっと、彼女は妹の勝手な行動を怒っているだろう。
この事件が、姉との間に深い溝になるのではないかと感じ、それを恐れた。
母の目を気にすることもなく、隣国の侵攻をひと段落させ、傷も癒え、ようやく姉妹でロアアールを盛り立てようと思っていたのに、どうしても神はウィニーに平穏を与えてくれようとはしないようだ。
だが、ウィニーはもう心に決めたのである。
たとえ、姉に嫌われるようなことがあったとしても、ここは決して引かないと。
姉を愛している。
ロアアールを愛している。
その両方のために、一番いい道がある。
ウィニーは、南下する度に暖かくなる風を頬で切りながら、大きく深呼吸した。
大丈夫。
そう、自分に言い聞かせる。
大丈夫、きっと今度も乗り越えられる、と。
ウィニーは、固すぎる姉の心を、変えられないことに気づいて茫然とした。
もはや、この部屋に姉はいない。
入れ替わりに、侍女のネイラが入ってくるのが見えたが、それどころではなかった。
どんな説得も姉には通じることはなく、ついには『これは、公爵となる私が決めたことです』と、とどめを刺されたのだ。
姉が、あの王太子と結婚する。
正確に言うと、王太子だった人と。
普通ならば、絶対にありえない組み合わせだった。
しかし、彼は自分の肩書を捨てて、ロアアールに婿に来るというのだ。
その際、結婚相手は姉妹のどちらでもいいという、恐ろしい冗談のおまけつきで。
そんな笑えない冗談を、姉は受けて立つ気なのだろう。
ロアアールと、そしてウィニーを守るために。
この馬鹿馬鹿しい婚姻を止める手立てを、彼女は必死で考えた。
姉の心が変えられないなら、あの男の心を変えるしかない。
だが、同時に時間もなかった。
姉が、正式に承諾の書状を、イスト(中央)に送ってしまえば、それこそ取り返しがつかなくなってしまう。
手紙を……ううん!
ウィニーは、立ち上がった。
クローゼットに突進し。
彼女は中から──軍服を引っ張り出したのだった。
※
ウィニーは、『靴下』を走らせた。
共に戦場にも向かった、彼女の愛馬である。
連れは、補佐官を含む軍の護衛3騎。
たったそれだけで、ウィニーはイストを目指していたのだ。
もはや、王都に乗り込んで、直接あの男と話をしなければ、覆す道はないだろう。
そう思った結果が、彼女のこの行動につながっていた。
このことについて、姉の許可が得られるはずもなく、ウィニーは黙って屋敷を飛び出した。
しかし、一人でそのまま都に走り出すような無謀なことはせず、彼女は軍舎に向かい、将軍たちと話をしたのである。
事情を説明し、ウィニーの意見に賛同を求めた。
あの王太子を、公爵の婿に欲しいなんて思っている将軍は、ただの一人もいなかった。
だが、断ることがひどく難しいこともまた、彼らはすぐに理解してくれた。
王太子を降りてまで、ロアアールに婿入りするという、前代未聞なほど向こうが下手に出ているからだ。
反逆の意を示す気がなければ、到底ひっくり返せることではないし、それを姉が決定することはない。
だから。
皆が難しい顔をしている中で、ウィニーはひとつの提案をした。
断ることが出来ないというのならば、せめて、と。
彼らは──それを、苦痛の表情で承諾した。
だから、補佐官も護衛もつけてくれたのである。
病み上がりの背中の傷が疼くのを、ウィニーは我慢しながら毎日馬を走らせる。
こうしている間にも、姉の書状が自分を追い抜いて行ってしまいそうで怖かった。
おそらく、将軍たちが姉に進言してくれているはずだ。
きっと、彼女は妹の勝手な行動を怒っているだろう。
この事件が、姉との間に深い溝になるのではないかと感じ、それを恐れた。
母の目を気にすることもなく、隣国の侵攻をひと段落させ、傷も癒え、ようやく姉妹でロアアールを盛り立てようと思っていたのに、どうしても神はウィニーに平穏を与えてくれようとはしないようだ。
だが、ウィニーはもう心に決めたのである。
たとえ、姉に嫌われるようなことがあったとしても、ここは決して引かないと。
姉を愛している。
ロアアールを愛している。
その両方のために、一番いい道がある。
ウィニーは、南下する度に暖かくなる風を頬で切りながら、大きく深呼吸した。
大丈夫。
そう、自分に言い聞かせる。
大丈夫、きっと今度も乗り越えられる、と。