君が好き





とはいえ、この密室で
まだ残された半分の時間。


自分の気遣いの無さに困っていれば





「あ」




遠くの方に見えた光。

ビルとビルの間。

多分、今、俺の角度でしか見えないそれを
なんとか加藤にも見せたくて。



「加藤!
こっち、ほら」


必死で手を引いて驚く加藤の頭を無理やりそちらに見せれば。


「あ」


先ほどの自分と全く同じ発言。



ビルの間から見えたのは
少し時期が早い花火。


しかも、きっとすごく遠いところの。

だけど、高いビルとビルの合間。
ほんの少しの間に見えたそれが
あまりに綺麗で。



「凄い…」



泣かせた、とか。
告白した、とか、
フラれた、とか。




そんなのいったん忘れてしまって



「今日、どこで花火だったんだろ」


加藤もそんなの忘れたように
無邪気に笑う。



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