君が好き
「そっか、和咲なんだ…。」
ポツリと独り言のように呟いて
なんだか楽しそうに笑う。
その表情はなんだかとても幼く見えたけど、
もしかしたら卒業生なのかも。
あ、でもこんな美人いたら噂になるし、
地元で道迷うわけないか。
「また、会えます。それなら。」
「え?」
しばらくボケッとしていれば
彼女の大きな瞳が綺麗に下がった。
「間もなく~、若葉駅」
「あ、この駅です」
「え?あ、この建物か。
これならすぐ行けそうです。」
電車から見えた病院に頷いて
「それじゃ」
と、笑って行ってしまった。
あ。
名前さえ、聞けなかった。
「行っちゃった、よ。」
閉まるドアにため息を吐いて。
だけど、
『また、会えます。』
彼女がそういうなら。
きっと、そうなんだろう。
自分の家から反対方向へ進む電車から見えた夕日は、
やけに、綺麗だった。