君が好き




「会長は、春みたいだなって思ってたんです」

「え?」


笑って首をかしげる彼に
私も笑顔を返す。


「始めてあった時ね、会長の頭の上に桜が載ってたんです。桜の花びら、肩にも」


あの時のこと、覚えてる。

同じような名前が続く駅で、
病院に行きたいのに一向にわからなくって。

見上げていた電光掲示板。


そんなときに彼が現れた。



…かっこいいな、
なんて、漠然と思って。


困ったり、笑ったり、沈んだり。

分かりやすい表情に私は笑ってしまって。




一瞬の出会いに、とてつもない勇気をもらって
サヨナラだって。


もう、サヨナラなんだって思ったときに




「あの!」




彼の声。
振り返った瞬間だ






風が吹いた。


温かい風が。














あの寒い日。

寒い寒いあの日。



お母さんが死んでからずっと、
動くことの無かった私の季節。




やっと、春が訪れたような気がしたんだ。





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