君が好き




「ゆうちゃん、はいこれ。」

「あ、懐かしい」

手渡されたラムネの冷たさで思考が一気に引き戻された。


「今日、手伝ってくれたお礼」

「え、よかったのに‥」
「ううん、ほんっと、助かったから。
亜紀ちゃんにも渡して、2人で飲んで」


手のひらをヒンヤリと冷やすそれ。

透明な瓶の先、やっぱり透明なビー玉。



「ありがとうございます」


オレンジ色を反射してキラキラ光るそれを持って加藤の元へ駆け寄ると
加藤も「あ、懐かしい」と笑った。


「会長は、」

「ん?」


広場の端にあるベンチに並んで座ると同時に加藤がそっと言葉を落とした。



「会長は、春みたいだなって思ってたんです」

「え?」


突然そんなことを言い出す彼女に笑って首を傾げれば、彼女もいたずらに笑う。


「始めてあった時ね、会長の頭の上に桜が載ってたんです。桜の花びら、肩にも」

うわ、なんだそれ。
「言ってくれればいいのに、俺、そのままだったよ、その後も」

さぞバカそうだっただろう。
うわ、恥ずかしい。


「うんん、話しかけてくれた時、風が吹いて、落ちちゃったの。
あったかい風がふわぁって吹いて。

それ見て、この人は春を連れて来たんだなぁって。」

「なんだそれ」

春を連れて来たって、ほんと、なんだそれ。


本当に思ったんですよ、なんて優しく微笑んだ後、また彼女は言葉をつなげる。


「だけど。今日は夏を連れて来ました」

「ラムネ?」

当たりと笑ったその顔にグラリ、やっぱり胸がなる。



「さっき、キラキラのオレンジ色を持ってこっちに来る会長が、太陽を持って来てるみたいで。

春のあったかい太陽じゃなくて、
夏のギンギラギンのあっついやつ。」



「‥そっか」


なぁ、加藤。
もしさ、もし。


「あ、ごめんなさい、なんか‥気持ち悪い、ですね」

「あ、嫌‥」


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