君が好き



「え?ま、まさか。」


驚いて少し目を開いた後、
急いで平静を取り戻す。


「嘘、下手ですね。」

「あ、すいません。」


初対面の人に言われてしまった。
演技スクールでも通ったほうがいいだろうか。


「謝られても…。」


苦笑いを浮かべるその人に
やっぱり胸は痛む。


「あの、なにを迷ってるんですか?」


その胸の痛みを紛らわそうと口を開けば
こんな言葉になってしまった。


「え?何を、って…。

道です。道を迷ったんです。」


あ。よかった。
ここで、
『人生に迷ってるんです』とか言われても困るし。


「よかったです。」

「え、なにが?」


なんのこっちゃ。
とでも、言いたげな彼女に笑顔だけ返しまた言葉をつなぐ。



「で?どこに向かうのに迷ったんですか?
地元のもんなのでわかると思いますよ。」



< 7 / 233 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop