君が好き
「え?ま、まさか。」
驚いて少し目を開いた後、
急いで平静を取り戻す。
「嘘、下手ですね。」
「あ、すいません。」
初対面の人に言われてしまった。
演技スクールでも通ったほうがいいだろうか。
「謝られても…。」
苦笑いを浮かべるその人に
やっぱり胸は痛む。
「あの、なにを迷ってるんですか?」
その胸の痛みを紛らわそうと口を開けば
こんな言葉になってしまった。
「え?何を、って…。
道です。道を迷ったんです。」
あ。よかった。
ここで、
『人生に迷ってるんです』とか言われても困るし。
「よかったです。」
「え、なにが?」
なんのこっちゃ。
とでも、言いたげな彼女に笑顔だけ返しまた言葉をつなぐ。
「で?どこに向かうのに迷ったんですか?
地元のもんなのでわかると思いますよ。」