瑠哀 ~フランスにて~
 微かに笑っているのか、薄笑いなのか、一応は瑠哀に相槌を返しながら微笑みを浮かべている。だが、その瞳は全く違っていた。


 冷たいほどの無表情の色を表し、感情など一切浮かびそうにない氷の瞳が、隙なく瑠哀を見ている。

 ―――いや、観察している、と言った方が正解だろう。瑠哀の話す言葉一つに、動かす仕種に、全てのことを、一から十まで見極めようとしているようだった。



 こうまであからさまにされるのも、あまりいい気分はしないが、瑠哀は言葉にできない何かを感じていた。

 それが何なのか、自分でも判らなかったが、それを掘り当てるのもおもしろいかもしれない、と考えていた。



「なるほど。

でも、今からよりは夜の方が、あそこは綺麗だ。

イルミネーションが反射しあって、なかなかの雰囲気を出している。

他に予定は?」

「特に考えていません」

「君は見たところ学生のようだけど?」

「ええ、学生です」

「よく、こんなところまで一人で来たね。親はなにも言わなかったの?」

「―――ピエール。

質問ばかりもいいが、彼女が食事をできないでいる。

聞きたいことがあるのなら、食事の後ゆっくり聞けばいい」


 カヅキが口を挟んで、ピエールを諌めるようにした。


 ピエールはその言葉で瑠哀の皿に目を向ける。


「これは、失礼。せっかくのランチが台無しになってしまうね。

少し興味があったから、聞き過ぎてしまった。

ルイ、謝るよ」


 瑠哀は、気にしてない、というふうに首を振り、素っ気無くピエールに問う。


「日本人が珍しい、というのでもないのでしょう?」

「そうだね。別に珍しくない」

「では、なぜ?、と聞いても構わないかしら」


 ピエールは軽く視線を上げて瑠哀を見る。
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