瑠哀 ~フランスにて~
『これ――。赤くなってる。あいつらがやったの?』


―――まずい……。



 朔也の視線が凍り付いたように瑠哀の首に注がれている。

 普段、温厚なだけに、こういう無表情はかなり怖い。



『殺されかけた?なんで?!』

『……脅し、だと思うの…』

『脅しでここまでするのか?親指の跡がくっきりと残っている』



 言い逃れはできないだろう。

 朔也の瞳は憤激の色を表している。



『―――あの男よ。こんな所で会うなんて、思わなかった…』



 あの男、と朔也は確かめるように繰り返し、ハッと身を堅くした。

 瑠哀が、あのと指すのは決まっている。



『あいつらがここにいるのか?!』

『その中の一人よ。マーグリス氏に会いに来たのか、って。

邪魔をするな、とも言われたわ』

『迂闊だったな。ここに来ていただなんて―――』


 朔也は瑠哀の肩から手を離し、横を向いて苦しそうに目を閉じた。


『……ごめん。俺のせいだ。

―――あの時、君を一人で行かせなければ、こんなことにはならなかったはずだ』

『サクヤのせいじゃないわ。

あの男を追いかけようとした私が悪いんだもの。

それに――、私はあなたの側にいない方がいいと思ったから……』


 パッと目を開けた朔也を見て、瑠哀は微かに下を向いた。
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