瑠哀 ~フランスにて~

-6-

 その翌日、マーグリスは約束通りピエールの屋敷に一人でやって来た。

 今日は、この間のように杖をついてはいなかったが、足が不自由なのだろうか、歩き方がびっこだった。



「一人でいらしたんですか?」


 マーグリスは迎えに来た瑠哀を難しい顔をして見やる。


「ああ。ここに来ることは誰にも言っていない。

―――それより、どこにいる?

一人で来たら、会わせてくれるのではなかったのか?」

「その部屋にいます。

あなたのことは言ってありませんから、手荒な真似はしないでください」


 マーグリスは瑠哀を睨み、ゆっくりとそのドアを開けて中に入っていた。



 ドアの音を聞いて、ユージンは振り返る。

 そのドアから年のとった老人が歩いて来た。

 なんとなく変な感じがして、ユージンは目だけを動かしてその老人を見やる。



 その目の先で、老人は強張った顔をして、微かに震えている。


 瑠哀がここで待つように言ったから、ユージンは大人しく待っていたのに、当の瑠哀は全然姿を現さないし、おまけに変な老人が来て自分を凝視したまま立ちすくんでいることに、ユージンは少し膨れていた。


 口を少し尖らせて、床を蹴るようにした。


「―――ユージン、か……?」



 マーグリスは震えながら、その手を伸ばすようにした。

 そっとユージンの髪に触れ、大きな息をつく。



「おじいちゃん、だれ?」


 ユージンのその幼い声を聞いて、マーグリスは顔を歪めてユージンを見下ろした。


「私は……お前の、祖父だ。お前の、おじいちゃんだよ」

「おじいちゃん?!―――ほんとう?ぼくの、おじいちゃんなの?」



 ユージンは目を丸くして、その老人を見上げた。

 不思議そうな顔を見せ、そして子供らしい大きな笑みをつくった。
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