瑠哀 ~フランスにて~
Part 6
 瑠哀は全くの無表情でベッドに置かれたものを黙って見ていた。

 その瞳には感情の機微さえ表れてなく、冷然とするほどに冴え切った輝きを見せていた。



 その冷たい視線はただ一点に注がれている。


 そこは驚くほどに、静寂だった。



――――鮮紅色の、このドレス。



 瑠哀があのパーティーで来ていたものだ。

 ご丁寧にクローゼットから出して、瑠哀の寝室のベッドの上に置いてある。



 そして、そのドレスの上に、一輪のバラの花。

 ドレスと同じ、紅の鮮やかなつぼみが半分ほど開きかかかっている、一輪のバラ。



 これが何を意味するのかは知らないが、確かなことは、この家にあの男が侵入したということだ。



 どうやら、家を封鎖しても意味がない、ということが、これではっきりとした。



 瑠哀の部屋を知っている。

 まだ、ここに着いて二日しか経っていないというのに………。



 このドレスが全てを物語っていた。



『やってくれるわ。キザったらしい挨拶までしてくれちゃって―――』



 あのケインと言う男は、どうにも短気で陰湿な目をしていた。

 こんな風に洒落た挨拶など考え付くはずがない。

 ―――と言うことは、もう一人の男だろう。



 頭脳を受け持っているのは、あいつか。

 ケインは実質の肉体労働派だろう。



 これで、なんとなく府に落ちなかった点が明確になってきた。



 あれだけの騒ぎを起こす奇抜な考えに反して、ケインは瑠哀を殺そうとした。

 そんなことをする必要などなかったはずなのに、あれは瑠哀を殺しかけた。



 正確には、セシルをだが。



 その上、あのパーティーでも、またもや、瑠哀を殺そうとした。

 あれは、本気だった。

 考えなしに、いつも感情の赴くままに動いている、と言った感じだった。
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