瑠哀 ~フランスにて~
 ああいう単純な奴を相手にするのは容易い。

 突けば必ず反応してくるから、簡単に状況を捜査できる。



 だが、知能犯はやりずらい。

 今までのことから言っても、かなり悪知恵が働いて頭の切れる男を相手にしなければならないのは確かだ。



 なぜ、ケインのような男と組んでいるのかは知らないが、目的はお金なのだろうか。



 それならそれで、ケインと同等に扱えばいいが、そうでないなら、少々厄介なことになる。

 相手の目的が判らないままでは、動きが取れない。対処する方法も限られてくる。



『―――ケインじゃなくて、あの男に近づかなきゃいけないみたいね。余裕を見せてくれるわ』



 瑠哀は深い溜め息をついた。



『なにが、余裕なの?』



 聞き覚えのある日本語を聞いて、思わずバッと後ろを振り返った。


 そこには寝室とつながった客室のドアに寄りかかるようにして立っている朔也がいた。


 人差し指を軽く曲げて、コン、とドアを一度ノックした。


『サクヤ―――!?』



 瑠哀は思わず自分の目を疑っていた。

 信じられないように何度か瞬きをして、それから、左手で額を押さえ込み、大きな息を吐き出してしまう。



『なぜ……、ここにいるの?』


『言っただろう、一緒に行く、と。少し遅れたけど、まだ間に合ったみたいだな』


 瑠哀は額に手を当てたまま、きつく眉間を寄せた。
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