瑠哀 ~フランスにて~
「彼女に、一本取られたな」


 ピエールは横の朔也に向いた。


「君が彼女にしたと同じように、彼女も君を拒絶したというわけだ」


 朔也は口を拭き、グラスに手を伸ばす。


 どういう意味だ?というふうに眉を寄せたピエールを見て、軽く白ワインを口に流し話し出す。


「どうして、彼女を誘ったんだ?

自分に関わって欲しくないのなら、初めから彼女に声をかけるべきじゃなかった。

彼女の何が気に食わないかは知らないけど、自分は気の向くままに質問をしておいて、

それが自分の番になったら嫌いだ、なんて、そんな虫の良い話はないだろう?」


 ピエールは朔也の言うことを黙って聞いていた。


 おべっかや、諂いばかりの自分の周りの世界で、この友人だけは他の人間と違っていた。いつも自分が悪い時は、必ずストレートに諌めてくれる。

 自分を一人のに人間として、友人として考えてくれているからできるものだと、知っている。



「―――彼女が、今までに会った女達と違っていたから、苛めてみたくなったんだ」


 ふう、と息をつき、ピエールは天井を見上げるようにした。

「別に、ルイが悪いわけじゃないんだけど、どうもね。

――今までの癖で、若い女は特に嫌いなんだ。

君の言う通り、彼女を誘うべきじゃなかった。

ルイに悪いことをしたと思ってるよ」
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