瑠哀 ~フランスにて~
「それは、筋が通っている。

彼女はユージンの実の母親だ。

マーグリスに何かあったら、ユージンが成人するまで彼女はユージンの後見になる。

財産管理も彼女に任されるだろう」

「そうね。それを、話したんだけれど………」


 最後の言葉は出されることなく口の中にしまわれた。


「それで、彼女が怯えた、と言うんだな」



 ピエールは、くだらない、と言う風に冷たく言い放つ。

 瑠哀は眼を開け、ピエールを見上げた。



「ルイ、そんな女に一々同情することなどない。

当然の現実を受けとめもせず、それから逃避し、自分の一人息子でさえも忘れている。

君が彼女を心配して彼女に事実を話さないのはわかるが、

彼女はそれを当たり前のことのように君に甘えている。

君の上にあぐらをかいて、のうのうと座っている。

そんな女に同情する必要などない」


「ピエールの言っていることは正しいと思うわ。

でも――、人によって、現実を受けとめられる人と、そうでない人がいる。

セシルには時間が必要なの。

少しずつでもいいから、状況を把握していってもらうしかないわ」


「その間、君が傷を負わなければならなくなるかもしれないのにか?」


「仕方が無いわ。

それに、これはセシルの為じゃないの。

全て、ユージンのためよ。

あんな小さなユージンが苦しんでいるのを、見捨てることなどできないわ。

私になにができるか判らないけれど、もし、

私にできることがあるなら、私は何でもする。

それで、ユージンが幸せになってくれるのなら、多少の危険は安いものだわ。

そして、多少の不快も、ね――――」
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