瑠哀 ~フランスにて~
「フォンテーヌ様」


 不意に呼びかけられて振り返ると、店の支配人がテーブルの側に来ていた。


「フォンテーヌ様、カズキ様。今日のランチは満足していただけたでしょうか?」


 支配人は静かに微笑んだ。


「ああ、悪くはなかった」

「おいしく頂いたよ。ありがとう」


 ピエールと朔也がそれぞれに返答をした。


 支配人はそれを見て満足そうに頷き、ナプキンに包んだなにかを前に出すようにした。


「ウェイターが入り口の所に落ちていたのを見つけたのですが、

先程の美しいお連れの女性がしていたものではないか、と申しますので、

ご確認を、とこれをお持ちいたしました」


と言いながら、支配人はナプキンを開いて、テーブルの上に置いた。


 二人とも視線を落とし、そのナプキンの中のものを確かめるようにした。


 それは、ピアスの飾りで、ぶらさがっていた部分が外れて落ちてしまったようだった。

 細長いトライアングル状の金に、きれいな青色の石がはめ込まれていた。



「確かに、彼女のものだ。

今頃、片方がなくなっているのに気付いて、困っていることだろう。

僕が預かって、後で彼女に渡そう」


 ピエールはそのピアスの飾りを手に取り、横の支配人を見た。


「そうしていただけると、助かります。

きれいな飾りでしたから、道端などで落とされなくてよろしゅうございました。

―――それでは、私は失礼させていただきます」


 支配人は丁寧に礼をして、静かに置くに戻って行った。
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