瑠哀 ~フランスにて~
「ご存知ありませんか?

彼は法律上、マーグリスの養子ではないんです。

マーグリス氏が、ケインを養子にする、と公で言っただけなのですから」

「えっ――?それは、どういう意味です?」


 ヴォガーは少し苦笑いめいた笑みを浮かべ、うーん、と考え込むように上を向く。


「マーグリス氏は典型的なワンマン経営で有名な方でしてね。

彼の考えでは、彼の言ったことは為されること、と言う風になっているんです。

彼が、ケインを養子裁定中だと言えば、ケインが養子になるんです。

お解りになりますか?」



 瑠哀は、何を馬鹿げている!!――― と顔をしかめた。

 ヴォガーはそれに小さく笑う。



「馬鹿げてはいるんですがね、これがマーグリス一族の経営方針なんです」

「では、ケインは実質上なにもマーグリスを引き継いでいないのですね」

「そういうことになりますね。

ケインの状況は、とても危うい。

マーグリス氏の気分一つで、養子になるかならないかが決まります。

ですから、この報告書でマーグリス氏がどのように出るか、

おもしろくなっていきますよ。

その頭のいい坊ちゃんがどう出るのかも、ね」



 瑠哀はこれで全て納得がいったような気がしていた。

 ケインはマーグリスの私産と一族の財産を狙っているのだとばかり思っていた。



 だが、彼にはそんなどころか、マーグリスの私産でさえも引き継ぐ権利はないのだ。


 なんとも馬鹿げているが、真相を知ってしまえばこんなに簡単なことから始まっていたのだ。
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