瑠哀 ~フランスにて~
「―――ケインは単純な男ですよね。

どうして、そんな彼がリチャードのような男と組んでいるのかしら。

それと同じことが、リチャードにも言えるわ」

「それは、判りません。

でも、リチャードの方には必ず理由がありますね。

彼は並の頭の良さではないので。

なにせ、その秀抜した頭脳で三つの奨学金をもらっています。

それも、全ての教科をトップで、という条件つきで。

なんのメリットもなしに、ケインにつくような男ではないでしょう。

必ずなにかありますよ。

ところで―――、あなたがなぜこのことに関わっているのかは存じませんが、

これは、あなたの取り巻きに関係することですか?」



 瑠哀は何を言っているのか判らない、と言う様子で、軽く首をかしげてみせた。


 ヴォガーは一瞬探るような目をみせ、瑠哀に問う。



「あのカズキグループが、マーグリスの経営に乗り出したのか、と思いましてね」

「カズキグループ?」


「ええ。でも、どうやら違うようでしたね」



 男はすぐににこやかな笑みを浮かべる。

 ポーカーフェイスで隠され、その表情が読み取れない。



 だが、瑠哀はその言葉を聞き逃さなかった。

 どうやら、この男は朔也の素性をかなりよく知っているようだった。



 瑠哀はふっとヴォガーに見られないように微かに微笑んだ。そして、男に向き直る。
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