瑠哀 ~フランスにて~
 その光景でさえもなんの光りも瞳に見せず、黙って眺めていたセシルに向き直る。


「そんなに、怖い?

そんなに、狙われていることが怖い?」



 セシルは怯えた目を上げ瑠哀を見やる。

 瑠哀は今までとは打って変わったように、その瞳に冷淡な輝きを浮かべセシルを見下ろしていた。



「そんなに怖い?

自分のたった一人の息子でさえも気にならなくなるほど、怖いの?

ユージンだって、この緊張した空気を感じ取っている。

彼だって、怖がっているのよ。

一番、助けを必要としているのは、彼なのよ。

そんなこともわからなくなるほど、あなたは怖くて全てを忘れてしまったの?」


 セシルはなにも言わなかった。


「昨日の件は、確かに不運なことだったわ。

ユージンが興奮して、銃を放ってしまった。

でも、その原因を作ったのは、あなたなのよ。

そんなことも、判らないの?」


 セシルは驚いて目を見開いた。震える口を開いて、声をしぼり出した。


「あれは……、お義父さまが、ユージンを私から引き離そうとしたから―――。

お義父さまが………」
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