瑠哀 ~フランスにて~
「クソッ―――」



 朔也が苛立たしげに手を振り下ろした。

 その拳が白くなるほどきつく握り締められ、怒りのせいか、肩が激しく震えている。



「ほんの今さっきまで、俺の目の前にいたのに―――!!

手を伸ばせば届くほど近くにいたのに―――!!

クソッ…―――!」



 その様子は朔也の怒りが心頭に発していて、激しい憤りを体中から表していた。



 ピエールはその穏健な友人の憤激を初めて目の当たりにして、驚きを通り越してしばし茫然としていた。


 すぐに、軽く息をついて、その友人の肩を押さえる。


「サーヤ、落ち着くんだ。

君が今乱れたら、誰がここを守るんだ。

ルイが戻ってくるまで、君はここを守る義務がある。

決して一人になるな、とは、ここも危険だということだ。

サーヤ、頭を冷やすんだ」



 朔也は苦しそうに顔を歪め、きつく唇を噛んでいた。

 その怒りを意思の力で無理矢理にでも抑え込む。



 はあ、と震える息を吐き出し、ゆっくりと顔を上げた。


「………わかったよ。君の言う通りだ。下に行って、もう一度、よく話を聞く」

「よくできたね」

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