瑠哀 ~フランスにて~

-3-

 きつく爪の跡が残るほど手を握り締めていた。

 瞳を堅く閉じ、きゅっと、口を結ぶ。



 その心の中では、早く、早く、と何度も急き立てている。


『救けて―――っ!!!』



 電話を取った瞬間、聞こえてきたのは日本語だった。

 恐怖に怯えて泣き叫ぶ声だった。



 次に聞こえたのは、あのケインのからかうような声。

 楽しいお友達相手ができて良かった、とケラケラと笑っていた。



 今から一人で来なければ、彼女がどうなるかは知らない、と言った。



 なぜ、見も知らない女の子を捕まえられたのかは知らないが、あいつのことだ。

 絶対にただでは済まされない。



 外では、この時期に珍しく、雲が乱れ雨が降り出しそうになってきている。

 さっき、ゴロゴロと雷が鳴っているのを聞いた。



 車がキィッと停まると同時に、瑠哀は駆け出し、その建物の中に走って行く。



 ここは、フットボールかなにかのグランドなのだろうか。

 横に客見のスタンドがある。



 そのベンチをグルリと見渡したが、誰もいない。

 向こうに更衣室に続くドアが開いている。瑠哀はそこに駆け出した。



 暗いコンクリートの床は、瑠哀が走る度に、カツンカツン、と不気味な響きを繰り返す。



 一瞬、足を止めて、耳を澄ました。

 どこかからか、サーッと、水の流れる音がする。

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