瑠哀 ~フランスにて~
 刑事が部屋から出て行った後、静かに瑠哀の元に歩いて来て、少し屈むようにして瑠哀を覗き込む。


『大丈夫?』

『ええ、大丈夫よ。

ありがとう、サクヤ。あなたのおかげで、余計なことを聞かれずに済んだわ。

それに、あんなに簡単に終わったし………』


 瑠哀は心配そうに朔也を見上げる。朔也は優しく笑って、瑠哀の髪を撫でた。


『君は、そんなこと気にしなくていいんだよ』


 朔也が自分の身元を明かした時、年のとっている刑事は明らかに朔也が誰であるか判ったようだった。


 おまけに、瑠哀のことを自分に会いに来た大切な客人だと伝えた。


 そのおかげで、瑠哀の身元をそれ以上追究されず、家にも確認されなくて済んだのだ。


 十六だと知られたら、また、話がややこしくなり、あんなに簡単には終わらなかっただろう。



 朔也は瑠哀が狙われていたことを話さなかった。

 あの花火の事件や、パーティーのことは話したが、パリでのことは話さなかった。



 それだと、瑠哀が朔也の客人だと言うことが食い違ってしまうからだ。


 それを考慮し、瑠哀の立場を考えた、朔也の機転と優しさだった。
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