瑠哀 ~フランスにて~
 あんなに打ちひしがれていたのに、


『これであいつの狙いが定まった。

ユージン達に余計な手が伸びなくて良かった。

あいつと直で戦う機会がきたわ』


と瑠哀は言い切ったのだ。


 その姿があまりに痛々しくて、朔也とピエールはなにも言えなかった。


 ケインが瑠哀の命を狙っている以前に、瑠哀の体は衰弱していた。


 ピエールの言った通り、やつれたその顔に双眸だけが闇のように黒く輝いていて、触れたらパチンと切れそうなほどに神経が研ぎ澄まされているようだった。


 それを心配した朔也は瑠哀にベッドで眠るように言ったが、瑠哀は椅子で寝ていたからベッドでは寝ない、と言った。


 それで、朔也は向かい合わせで椅子に眠った。


 朔也は長椅子だったが、瑠哀はただの一人用の椅子に座ったまま眠る形だった。


 いつの間に瑠哀が目を覚ましたのかは知らないが、朔也は静かに身を起こしながら、部屋の隅に立っている瑠哀を見つめた。


 少しだけ開けたカーテンの隙間からじっと外を眺めている。

 きゅっと、口をきつく結び、瞬きもせずに外を睨んでいた。


 その白い横顔は恐いくらいに綺麗で、その瞳にだんだんと強い輝きが浮かび上がり、昨日の怯えが完全に消えて行った。


『ルイ……』
< 201 / 350 >

この作品をシェア

pagetop