瑠哀 ~フランスにて~
 朔也はその瑠哀の様子が不穏な感じがして、思わず呼びかけた。
 瑠哀は静かに首を回し、朔也を見やる。


『ごめんなさい。起こしてしまった?』

『いいや。―――いつ、起きたんだ?』

『さっきよ』

『そうか。ルイ、君はもう少し休まなきゃだめだよ。体がもたなくなる』

『後で、もう少し休むわ。

休まなければならないでしょうから。

ここで、倒れるわけにはいかないものね』


 瑠哀は口だけを動かした浅い笑みをみせる。


――――笑う…?


 朔也は訝しんで、また微かに眉を寄せる。


『逃亡者の心理は、どういうものかしら?

極力人を避け、家からは決して外に出ない。

サングラス、帽子、身に着けられる物は全てつけてでも顔を目立たないようにする。

できるなら、遠くへ遠くへと、誰も自分を認識する者がいない所へ行きがちだわ。

でも、あの男はどうかしら?

あれだけの短気な男が、簡単にこれを諦めるはずはないわ。

必ず、この街にいる。必ず、リチャードの元に匿われている。

手始めは、あの男から――――』
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