瑠哀 ~フランスにて~
「どうだかね。

僕達が無理矢理ついてこなければ、一人でさっさと出かけていたんじゃないのか」


 事情の説明もなしに勝手に外に出だしたさっきの瑠哀の態度に、かなり腹を立てているらしい。



 瑠哀の瞳がチロッとだけ朔也の方に向けられていた。

 ここしばらく無表情と化していた瑠哀の表情から、ほんの少しだけ、いつもの瑠哀を取り戻したような、そんな表情の色だった。



 だが、その瑠哀の表情に安堵している様子は全くなく、視線を向けられた朔也もまた冷たく瑠哀を見返していた。


「ルイ。君を気絶させたくはないが、いつまでもこの状態が続くと言うなら、

俺にはその選択する余地がない、と言うのを忘れないでもらいたい」


 朔也のこの口調も、遊びなどではなく、本気だった。


 温厚なだけに、本気で怒った時の迫力が、並々ならぬものなのも、瑠哀は良く知っている。



「――二人には――」

「迷惑ではない、と言っている」

「それ以上、同じことを繰り返さないでもらいたい」


 言いかけた瑠哀を遮って、二人がキッパリとそれを言い切っていた。


 ムッとしているであろうに、そのきつい表情が、更にキッとしかめられる。


「…ごめん、なさい」


 ピエールは益々嫌そうに眉根を寄せていた。


「ルイ、謝るんじゃない」

「でも―――」


「謝るな、と言っている」
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