瑠哀 ~フランスにて~
 ピシャリ、とピエールが厳しく言い捨てた。

 完全に、頭にきているように、それ以上の言葉を聞きさえもしない様子だった。


 今、何かを話しかけたのなら、疑いようもなく、ピエールは冷淡にその相手を切り捨てたことだろう。



「…ごめんなさい、ピエール、サクヤ…」



 謝るな、と言いつけられているのに、瑠哀はそれを口にした。

 また、ピエールの眉間がきつく揺れる。



「僕達は君を怒っているんじゃない。

心配しているんだ。

判らないのか?」


 ピエールの苛立たしげな口振りが容赦なく吐き出される。


「わかっている…。

ありがとう、ピエール、サクヤ」


 瑠哀はそれだけを言って、ほんの微かにうつむいた。


 深く瞬きをしたその瞳の奥から、自責の色が哀しげに浮かんでいるのが見える。


「ルイ」


 グイッと、ピエールが瑠哀の顎を無理矢理上げさせた。


「自分を責めるんじゃない。

それ以上、謝るんじゃない。

君は何も悪くない。僕達は君をとても心配しているんだ。

それだけだ。

それが判ったんなら、さっさとその顔をやめるんだ。

辛気臭いのは、嫌いだ」
< 211 / 350 >

この作品をシェア

pagetop