瑠哀 ~フランスにて~
「私の用意はできているわ。

来るなら、いつでもかかって来なさい。

逃げも隠れもしないわ。

それを伝えてもらいましょうか、リチャード」


「何のことかな。

用事があるなら、明確かつ的確に用件を言ってもらいたいね。

余計なことで時間を潰されたくはないんで」


「今更、とぼける必要はないわ。

互いの目的は、明確かつ的確、でしょうから。

それとも、余計な一言を口に出して、

またそこの警察署に連れ戻されるようなヘマをするとでも怖れているのかしらね。

用意周到でも、あの男じゃ、次に何が起こるか判ったものじゃない。

せっかくの優秀な頭脳を無駄にするような駒を選ぶなんて、

初めから采配もなにもあったものじゃないでしょう。

たまには、そういう落ち度もするのね、秀才さんは」



 リチャードが少しだけ口を歪め、スッと瑠哀に向き直った。


「僕の事情聴取は終わったんだが。

何か聞きたいことがあるのなら、そこの警察官にでも聞けばいい。

それとも、僕にカマをかけたいのか。

まあ、無駄なことに違いないがね」


「別に、聞きたいことなどないわ。

尋ねることも、特別ないわね。

ただ、私は用意ができている、と言っているだけよ。

いつでも来るなら、来なさい。

私も本気を出すわ。あなたは、ただそれを伝えるだけ」
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