瑠哀 ~フランスにて~
 他には何も用事がないわ、とでも言いたげな素振りを残し、瑠哀が笑った。



 薄い、微笑なのか嘲笑なのか。

 真っ直ぐにその視線がリチャードに向けられ―――捕えていて、不敵に輝いたその漆黒の大きな瞳が鮮やかに色づいて行く。



「特別、聞くことなんかないわ。

駒の方から勝手に出てくるでしょうから。

野放しにして、平穏無事でいられるのかしら。

随分な誤算よね、秀才さん。

なんで、あんなのと組んだのか、今以て不思議なんだけど。

どう考えても、あんなくだらない男に自分の未来を託すなんて、

私じゃ到底できない芸当だもの。

共倒れして、這いつくばるのが目に見えている。

本当に、どうした誤算なのかしらね。

執着するような価値のある男でもあるまいし」



「別に、僕は誰にも執着はしていないけどね」

「その割には、あまりにもくだらない駒を選ぶのね。

あの男なら、必ず秀才さんも道連れにするわよ。

必ず、ね。その人生共々」


「僕は至ってシロだというのを、まだ理解していないようだ。

あの程度の者など、そこら辺にどこらでもいる。

見限って、次を拾えばいいだけだ。

元々、大した価値のない男だが、ただその後ろ盾が役に立つ、

と言う理由だけで仕方なく拾ったんだ。

僕は馬鹿ではない。

セコセコと、みみっちい小金を気にして一生を終えるつもりはない。

世間には、無知で愚鈍で、どうにも生かしておく価値のない人間がウジャウジャいる。

僕はただそれを拾って、彼らの人生に多少なりのスパイスを与えてやる。

なにも、成功する為に表舞台に立つ必要はないんだ。

要は、自分の価値とその実力を知っていればいい」
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