瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀がナイフの突き付けられたまま、ゆっくりと向きを変え出した。

 スーッと、瑠哀の動くままに首に赤い線が浮かび上がり、それが肩へと流れて行く。


「どうしたの?

私に会いに来たんでしょう。

私はここにいるわよ。

私に用があったんじゃなかったの?」


 瑠哀はケインを見据えたまま、その口元に笑みを浮かべて行く。


「どうしたの?

私はここにいるわよ。

殺したいんじゃなかったの?

それとも、その気はなくなったのかしら」


 ケインの目が疑わしそうに瑠哀を睨んでいる。

 そのケインに、瑠哀は凄艶な微笑をみせ、冷たいその瞳で真っ直ぐケインの目を見つめ返す。


「どうしたの?私はここにいるわよ。

手を伸ばせば、すぐに届く所にいるわ。

私が欲しかったんじゃなかったの?

こんな目の前にいるのに、怖気づいて手も出せないのかしら。

私が欲しかったんでしょう?

殺す前に、ずっと、私を欲しがっていた。

なぜ、彼女なんか捕まえたの?

彼女が私の代わりになどなれるはずがないでしょう?

私はここにいるのよ」


 ケインがまだ警戒した目をして、そこを動かない。


 瑠哀はケインを見つめたまま手を伸ばし、パサッと、押えていたバスタオルを落とした。
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