瑠哀 ~フランスにて~
「ルイ」


 呼ばれて、瑠哀が振り向きかけた時、グッと顎を掴まれ、無理矢理横を向かされた。


「ピエ―――」


 瑠哀が何かを言い出す前に、ピエールが瑠哀の口を塞いだ。

 目の前に端正なピエールの顔があり、その口唇で、無理矢理、瑠哀の口を押し割ってくる。


「―――これは消毒だよ。

あんな奴に触れられるだけで汚らわしい、って顔してるのに、キスなんかするなっ」


 口唇を離したピエールが短く言い捨てた。

 あのいつもの冷たい感じのする瞳に怒気を含ませ、瑠哀を真っ直ぐに睨み付けている。


「君のその気高い誇りが汚されて、今にも切れそうなのを、自分で自覚しているのか?

君は、自分が汚されて平気でいられる女じゃない。

いくら僕達を助ける為だと言っても、二度とあんな男にキスなどするな。

僕達じゃなくて、自分の心配をしろ。

それが判ったんなら、サーヤにもしてもらうんだね」


 ピエールは掴んでいた手を離し、怒ったままスタスタと寝室を出て行ってしまった。


 瑠哀が半ば呆然としてその背中を目で追っていたら、グイッと頭が引っ張られ、少し倒れかけた体を誰かに抱き締められた。


「―――!!!」


 朔也にしっかりと抱き締められ、強く押さえられている自分が信じられなかった。

 押さえられた頭が前に強く押され、目の前の朔也の口唇がそれを強く押し返している。


 瑠哀を抱き締めている腕に力が込められ、前以上に強く朔也の胸の中に押されて行く。
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