瑠哀 ~フランスにて~
 朔也は、バッと、その手を掴み返した。

 手を握ったまま、少しの間呆然としている。


「サーヤ、どうしたんだ?」


 朔也のその様子が訝しんで、ピエールが聞き返した。

 朔也はそのピエールに構わず、反対の手で瑠哀の顔にも触れ出した。

 触れて、その触ったものが信じられない、と言うような顔をみせた。


「サーヤ?」


 あまりにその朔也の様子がおかしいので、ピエールが椅子から立って、瑠哀の元まで歩み寄る。

 そして、瑠哀の腕を掴んだ。


「な、に……?」


 ピエールもまた驚いたように瞳を大きくした。

 瑠哀がスッと二人の手を外し、その二人の間をぬって立ち上がった。


「警察が来たようだわ」


 ドアに向かって歩き出した瑠哀の腕を、朔也がグイッと掴み寄せた。


「ピエール、出てくれ」


 瑠哀を見たまま、それをピエールに言う。


 ピエールが動き出したが、朔也は瑠哀を黙視したまま、腕をしっかりと掴んで離さない。


「ケインが侵入したというのは―――」

「あそこにいる」


 この間の刑事が口先切ったのを、ピエールが淡々として告げた。
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