瑠哀 ~フランスにて~
『ミサキ、って、やまへんの‘岬’?海にある』

『いいえ。‘美’しいに‘咲’く。美咲』

『へえ、きれいな名前だね』


 ピエールのところに向かいながら、瑠哀たちはたわいないことを話していた。


『カヅキさんは、どう書くんですか?』

『サクヤでかまわないよ。カヅキは‘霞(かすみ)’に‘月’、霞月。

サクヤは北とかついたちの意味の‘朔(さく)’に‘也(なり)’、朔也。

霞月(かづき)朔也(さくや)』

『きれいな名前だわ』

『美咲って名前みたいだけど、ルイが名前だよね』

『ええ。瑠璃の‘瑠(る)’に、哀しいの‘哀(あい)’』

『へえぇ…、変わってるね』

『美咲さん、なんて呼ばれたのは初めてだわ。一瞬、誰のことかと思ってしまって』


 瑠哀は小さく笑う。


『じゃあ、ルイ、でいいのかな?』

『ええ。そっちの方が、自分の名前を呼ばれている気がしますから』


 霞月も瑠哀につられたように笑った。


『ルイは、日本人だよね』

『私の日本語、変かしら?』

『いや、そうじゃなくて……。あまり日本人らしく見えないから。顔とか、背とかね』

『そうねえ、確かにあまり日本人だとは言われないかも。

でも、それなら、あなたも日本人らしく見えないわ』

『そうかな』

『そう言われません?』

『たまに、言われるかもしれないな』


 瑠哀はくすりと笑った。
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