瑠哀 ~フランスにて~

-5-

 腕の中の瑠哀を抱き締めながら、朔也はとても穏やかな表情をして微かに瞳を落としていた。


 自分の腕の中で、瑠哀が静かに眠っている。やっと、眠っているのだ。


 瑠哀が朔也に寄りかかって間もないうちに、瑠哀は眠りに入って行った。

 それほど疲れていたはずなのに、そんなことを一言も口に出さず、ずっと一人で起きていた。


 瑠哀がユージン達を心配し、そして、朔也達を心配している間、本当に自分のことを一度として心配しない。


 なぜ、こんなに自分が傷ついているのに、それを気にしないのか、不思議だった。

 一人で辛い思いをして、それでも尚、なぜユージンに笑いかけられるのか、不思議だった。



 朔也が生きてきた中で、こんな女の子は、見たことも、会ったことも、なかった。

 そんな人間がいるだなんて、考えもしなかった。



「ルイは、少しは落ち着いたの?」


 椅子の向こうでピエールが小さく囁いた。


 朔也は微かに苦笑を見せ、小さく首を振った。


 ピエールの聞いていることは、瑠哀の体温のことだった。

 これだけ長く抱き締めているのに、瑠哀は依然として冷たかった。

 ピエールが持ってきてくれた毛布を掛けてはいるが、瑠哀の肌からはまだ体温が感じられない。


 これだけ冷たいのは、かなり長い時間水を浴びた証拠だろう。
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