瑠哀 ~フランスにて~
 朔也が素直で、ピエールはクスッと笑いを洩らした。


「随分と、素直になったじゃないか」

「自覚してしまえば、迷うことはないから。

俺は、それほど間抜けじゃない。

何も手を出せず、戸惑っている可愛い少年でもないつもりだから。

俺も、君と同様、諦めのいい男じゃないんだ」

「まあ、カヅキの坊ちゃんだから、自分の我が侭くらい知っているだろうさ」


 朔也もふっと笑みを洩らした。すぐに、その顔が少し真顔になり、心配そうにピエールを見る。


「…傷は―――?」


 ピエールはあまり浮かない顔で、小さく息を吐いた。


「たぶん、跡が少し残るだろうね。

まだ若いから、それほどひどくは残らないと思うけど……。

傷跡を薄くするクリームもあることだから、そんなに心配はいらないだろうね」

「そうか……」


 朔也は少し辛そうに眉を寄せた。


「ただ、腕のは、完全に残るだろうね。

一度、肉が抉れたから、傷が盛り上がって来るよ」


 朔也は黙り込んだ。それは、朔也自身がよく知っている。

 その手当てをしたのは、朔也なのだから。


「まったく、お姫さまはそこら辺の自覚が特に欠けているのが、問題だよね。

傷だらけになって平気な顔している女を、僕は今まで見たことがない」

「…たぶん、誰も傷を負わなくて良かった、と思ってるんじゃないかな」

「だろうね」


 ピエールはもすごく短く同意した。

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